「涼くん!」

 わたしがひょっこり顔を出すと、涼くんは目を丸くする。

「お前、退院したのか」

 ホッとして柔らかな笑みになったのは一瞬、すぐさまいつものポーカーフェイスに戻ってしまった。

「窓から乗り出すな、危ないぞ」

 車内へ戻るよう肩を押す。ぶっきらぼうな手付きに見えるも、そっと毛先を撫でられる。

「良かったら乗っていかないか?」

 お父さんの提案に涼くんはかぶりを振り、汚れた服とサッカーボールを見せた。

「俺、泥ついてるから車を汚しちゃいます。それに桜子に影響あると悪いから」

「そんなの平気だよ!」

 わたしは席を寄り、涼くんが座るスペースを作ってポンポン叩く。

「何が平気だよ。お前さ、おじさんとおばさんにどれ程心配掛けたのか分かってて言ってんのか? 大人しく家で寝とけ」

「うっ……」

 それを言われてしまうと、返す言葉がない。

「そうは言えど、この辺りで物騒な事件が立て続けにあるじゃない? もうこんな時間だし乗っていきなさい。おばさんが後ろに乗るわ」

 お母さんは素早く助手席を降りて、涼くんを強引に乗り込ませた。そのままわたしの隣へきて内緒話を仕掛けてくる。

「私もお父さんも心配は当然したけれど、一番桜子を心配していたのは涼君よ。涼君ってば、もう泣いちゃいそうだったのよ? あっ、お父さんは泣いてたわ」