(キス、か)

 四鬼さんの女性慣れした態度とわたしじゃ、キスの価値というか重みが違うかもしれない。四鬼さんにかかれば抱き締めたり、キスするのも流れで受け入れさせる。
 右頬、左頬、おでこ、そして旋毛を順に押さえ、また熱くなった。

「ごほんっ」

 お父さんがわざとらしく咳払い。ルームミラー越しに睨まれてしまい、わたしは肩を竦めた。

「あら、あれ涼君じゃない?」

 自宅付近の交差点で涼くんを見付け、お母さんが停車を促す。

「涼君! 練習の帰り?」

「あぁ、おばさんか。はい、そうです」

 窓を開け話し掛けると、涼くんも足を止めて応じる。

「でも部活動はお休み中なんでしょう?」

「そうなんですけど。公園で自主練習をしてました」

「そうなの! 偉いわねぇ、おばさん感心しちゃうわ」

「いや他にやる事がないだけで。あの、桜子は? まだ病院ですか?」

 後部座席の窓にはシートが貼ってあり、涼くんからわたしは見えない。会話へ参加しようとすると、お父さんがタイミングよく窓を開けてくれた。