涼くんのノートで授業をやり過ごして、やっと放課後。わたしは手早く荷物をまとめ、お祖母ち■

 涼くんのノートで授業をやり過ごして、やっと放課後。わたしは手早く荷物をまとめ、お祖母ちゃんに制服姿を見せようと決めていた。
 クラスメート達は部活動見学の相談をしているみたいなので、邪魔しないようそっと席を離れる。

「浅見、帰るのか?」

 ドアを開きかけた時、涼くんに呼び止められた。
 涼くんはわたしのことをみんなの前では名字で呼び、2人だと『おい』とか『なぁ』と呼ぶ。もう『桜子ちゃん』なんて言ってくれない。

「……うん」

 小さく返す。

「部活動見学は?」

「……行かない。これから用事があるの」

 体操服姿の涼くんはサッカー部で体験練習をするのだろう。周囲がわたし達のやりとりを探る気配がしたので、あえて素っ気無い返事をしておく。わたしと仲良くすると迷惑がかかる。

「用事? どこ行くんだ?」

 方向音痴のくせして、そう言外に込められていた。

「何処だっていいじゃない」

 こちらが距離を作っているのに食い下がられ、思わず睨んでしまう。すると涼くんは一瞬だけ傷付いた顔をして、それから睨み返す。

「んだよ、その言い方。せっかくサッカー部を案内してやろうと思ったのに。マネージャー募集してたから」

「わたしがサッカー部のマネージャー? そんなの無理だよ。分からない?」