病室から帰りの車内は言い難い空気で満ちていた。
 両親としては色々と言いたいだろうに、退院後数日は自宅療養する事となったわたしを気遣ってひとつだけ注意する。
 それはーー【桜子の気持ちを大切にしなさい】だった。

 普通、日本有数の企業、四鬼グループ、その後継者と交際していると聞かされたら驚くにしろ喜ぶと思う。まるでシンデレラガール、マンガやドラマみたいなシチュエーションだから。

 ところが2人は怒り、交際を認めない。

 先方がわたしの治療やお父さんの昇進を提案したのが、娘を金で買われると捉えた。だからこそ、わたしの気持ちを大切にするよう指摘したのだろう。

 わたしの気持ち、ね。
 後部座席から流れる景色を眺める。

 高橋さんの事件を知り、強烈な不安と吐き気に襲われた時、四鬼さんの顔を見たら安心した。大丈夫だと抱き締められ、症状が緩和する。キスも嫌じゃなかった。

 それと貧血を起こしてバス停で倒れた際も、高橋さんと廊下で揉めた時だって四鬼さんが助けてくれ、わたしのピンチに駆け付けてくれるような。

 たまたま行き合ったと言われればそれまでだけど、わたしとしては不思議な縁を感じる。