約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

 わたしからリモコンが滑り落ち、落下の衝撃で番組が変わった。お笑い芸人の笑い声が響き、その場へ座り込む。

「うっ、うぇぇぇっ」

 処理しきれない情報量が込み上げ、吐き気をもよおす。高橋さんは涼くんにレモンのはちみつ漬けを作ろうとして通り魔に襲われたのだ。
 高橋さんの物怖じしない勝ち気な顔、涼くんを好きだって言い切る性格、レモンを選ぶ仕草が頭の中でごちゃ混ぜとなる。

「うぇっっ」

 床に手を付き、もどしてしまう。ほぼ空っぽであろう胃はそれでも収縮し吐き出そうとした。

「桜子ちゃん?」

 名を呼ばれて咄嗟に振り返る。汚れた顔のまま四鬼さんと目が合う。

「し、四鬼さん、わたし、わたし」

 不安と吐き気で心細くなっているわたしは四鬼さんを見たら涙が溢れてくる。
 お父さんにしたように両手を広げ、すると四鬼さんも駆け寄ってきた。

「桜子ちゃん、大丈夫、大丈夫」

 吐瀉物に構わず膝をつき、抱き締めてくれる。わたしは白い制服へ涙を押し付け、彼の背へ手を回す。こうして密着すると甘い香りがして安心する。