早く先生がHRを始めてくれますように、なるべく顔に出さないで冷静を装う。
 ほどなくしてベルが鳴り、わたしはほっと息をつく。しかし、それも束の間だった。

「おう、浅見! 今日は登校できたか、良かった良かった。みんな浅見が困っていたら助けてやってくれな」

 先生がわたしに触れ、再び視線が集まる。圧力を感じたので仕方なく起立して、頭を下げた。

「浅見、放課後は各部活動の見学があるぞ! 他のみんなは入部の目星をつけている。浅見は美術部か?」

 先生なりにわたしを教室に馴染ませようとしている。確かに中学の時は美術部に所属していた。ただしそれは部活動が強制参加であったからで、高校ではやりたくない。

 とはいえ堂々と何処にも入らないと主張するのも躊躇われ、曖昧な顔をする。これで先生にもやっと伝わり、話題がわたしから反れた。

「うわぁ、必要最低限しか声を出さない感じ? あぁいう顔すれば察して貰えると分かってやってるよね」

「委員長が学校案内してあげるって言っても断ったんだって」

 わたしに関する囁きで頬が熱される。目頭まで熱くならないうち、校庭を眺める真似をした。桜はもう散り始め、花びらが風に舞う。

 お祖母ちゃんがわたしを桜子と名付けた。みんなに愛される桜みたいな人になれますように、そんな願いを込めて。

(お祖母ちゃん、元気かな。会いに行ってみようかな)

 青空を見上げる。まだ月が残っており、釣り針に似た形がわたしへ垂れていた。