約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

「お父さんったら! 涼くんが困ってるよ」

 スーツの裾を引っ張ると、お父さんは涙ぐんだ表情を拭い、今度はわたしと涼くんを一緒に抱く。

「良かった、桜子と涼君が無事で安心した」

 涼くんの顔が間近にあって、あちらも気まずそう。しかし、姿勢をがっしり固定されているので反らせない。
 四鬼さんがキラキラ王子様ならば、涼くんはワイルド騎士様といったところか。比べるつもりはないけれど、2人は性格も見た目も対称的だ。

「お前、四鬼千秋と付き合ってるのか?」

「涼くんも四鬼さんを知ってたの?」

「逆にお前は知らなかったのかよ? おじさんの会社、四鬼グループだぞ」

 涼くんがお父さんの襟元にある社章を目配せする。
 街の色々な施設でよく目にするこのマークは女性の横顔と桜の花弁がかたどられ、広く認知されていた。

「知ってはいたけど気にした事はなくて」

 お父さんは自分の世界に浸っており、まだ意識を現実へ戻さない。

「四鬼千秋はグループの後継者。結婚したら玉の輿だな」

 もしかして、涼くんは四鬼さんに対抗しているのだろうか。そもそもライバル視出来るのが凄い。

「サッカー選手と結婚しても玉の輿だよ」