語尾が萎んでしまうのはカウンターを覚悟しているからだ。
 強い言葉の切り返しを覚悟し、肩を竦めた。

「昨日? だからあれは錯覚って言っただろう! 鬼とか人ならざるものとかマンガじゃないんだ。警察にも同じ事言われたくせ、まだ懲りずに言ってるのかよ」

「いや、先生にはそこまで話してないーー」

 その時だった。首筋に絡まるような意識を向けられ、声が出なくなる。位置からしてこれは先生の視線だ。

 先ほど先生の目が赤く見えたのが過る。あれこそ錯覚であるはずなのに、振り返って確かめてはならないとばかり鳥肌がたつ。

「何だ、言ってないのか。まぁ、あんな事口走ったらおかしな奴と診断されるしな。ほら行くぞ」
 
 連れ出される形で保健室を出る。先生にお礼を告げたいが寒気までしてきて、会釈をするのが精一杯だ。

「浅見さん、私はおかしいとは思いませんよ? こと鬼については存在を否定しません」

「はぁ?」

 オカルトやファンタジーな事象を好まない涼くんがお腹の底から不快な声を出す。

「学園の創設には鬼が関わっていると伝わっており、鬼月学園と名付けたそうです。浅見さんが目撃したという鬼、興味があります。今度はそのお話を聞かせて下さいね」

 どうしてだろう。せっかくわたしの意見に味方してくれたのに、やっぱり先生の顔が見られない。涼くんを怒らせないで欲しい。

「鬼を見たっていうのは涼くんが言うように怖くて、混乱していたんだと思います。今日はありがとうございました」

 涼くんはわたしが緊張していると気付くと髪を掻き、不快な雰囲気を散らす。お礼を告げ終えると手を引いてくれた。

「どういたしまして、さようなら浅見桜子さん」

 またねーー先生の挨拶にはそんな含みを明確に含まれていた。