理由はどうあれ人助けするのは素晴らしい。わたしに出来るかと言われれば出来そうない。でも妙に何かが引っ掛かり、裏がありそうだ。

「はぁ、桜がつく名前ーー例えば桜井さんや桜木さんにも同じような対応をするの? との疑問が顔に出てますよ。桜井さんや桜木さんでなくとも日常生活に支障をきたす貧血をわずらっていれば、保健医ですので病院を勧めます」

 先生は空となった紙コップを回収すると、時刻を確認した。

「校訓の話をしたのは浅見さんも縁(えにし)を感じてくれたら良いと考えからですが、予想した通りの拒絶反応でしたが。
あなただから親切にしたなどと言おうものなら、シャッターを閉じてしまうのでしょう」

 つまり、わたしはまた試されたのか。

「先生の気持ちは嬉しいですが、そこまでして貰うのは気が引けます」

「でしたら気が引けないよう、お友達になりませんか?」

「先生と生徒で友達?」

「私は葉月学園の保健医ではありません。友達となってもいいじゃないですか? それとも私と友達になるのは嫌ですか?」

 この質問の仕方はずるい、嫌と言わせない。先生は沈黙を肯定と受け取ってにっこり微笑む。

「今日はここまでにしますか。お迎えがいらしたみたいなので」

「迎え?」

 振り向くと同時にノックもなくドアが開いた。