約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

 飲んで飲んでと促され、仕方なくひと口。
 すると優しい風味が一杯に広がって、頬が緩むのが分かる。

「美味しいでしょう? 美味しい物はギスギスした気持ちを柔らかくしてくれる効果があります」

「先生って心のドアを開くのが得意なんですね。女子に人気があるのも納得です」

 確かに美味しいし、気持ちが和らぐ。負け惜しみじゃないが言ってしまうと、軽口に先生は首を振る。

「私など全然。学園には完全無欠の四鬼君がいますから。女子生徒はみな四鬼君に夢中ですよ」

「四鬼?」

「おや、四鬼千秋君をご存知でしたか? まぁご存知ですよね。彼は四鬼グループのーー」

「貧血を起こしていたところを助けてくれました」

「ほぅ、それはそれは生徒会長らしい模範的な行動ですね。ところで四鬼君の話はさておき、貧血とは?」

 目蓋の色を見ようと手を伸ばしてくる。触れた指先からハーブティーの香りがする。カチコチ、腕時計の音もして、急接近に緊張してしまう。

「小さな頃から貧血気味だったので慣れてます。問題ないです!」

「それは慢心、感心しません。貧血は万病の元。目眩などの重い症状が出ていませんか?」

「あ、四鬼さんも貧血は万病の元と言ってました」

 手を離し、ファイルへなにやら書き込む先生。

「彼も血の有り難みを承知しているので、貧血を見過ごせないのでしょうね」