約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

「彼、迷惑していると思うんです。昨日も結局は涼くんが警察に説明してくれました」

 涼くんの名をポロリと出してしまう。

「涼君? 夏目涼君でいいですか?」

「知ってるんですか?」

 先生には学校側よりわたしの情報が開示され、ある程度の交友関係を把握されているのか。
 涼くんの名を出したのを後悔しかけると、先生が補足した。

「先入観を持たない為にも最低限の個人情報しか得てません。いや、夏目涼君は我が園でも有名でして。浅見さん目線の彼を聞いてみたかったと言ったら気分が悪いですよね?」

「はい。それは学園の話を聞き出そうとカウンセリング受けたがる生徒と同じです」

 わたしは唇をぎゅっと結ぶ。涼くんの事を好奇心で探られたくない。

「自分がされて嫌な事は人にしてはいけませんね。ごめんなさい」

 カウンセリングをする上で必要だと切り返す事も出来ただろうに、先生は素直に謝罪する。そしてホッとしていた。

「先生?」

「いやぁ、浅見さんから怒りを感じられて良かったです。警戒心強くて本音は話してくれないだろうと思っていました」

「そんな! わたしを試したんですか?」

「試すなんて人聞きの悪い。ここでのやりとりは口外しません。お互い、猫を被るのはよしましょう。ほらハーブティー、冷めてしまいますよ?」