約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

「ハーブティーお好きですか?」

 先生がバッグからマグボトルを取り出す。ピンクの花柄模様のマグボトルは男性が使うには小振りで可愛らしい。

「これ妹の誕生日プレゼントとして贈ったものの気に入ってくれなくて。子供っぽくて嫌だって言うんですよ」

 わたしに振る舞うつもりだったのか、紙コップも持参し、温かな湯気を丁寧に注ぐ。

「妹さんが居るんですか?」

「はい、浅見さんと同い年ですね。ご覧の通り歳の離れた兄妹でして、年頃の女の子の趣向が全然分かりません」

「え、先生って何歳なんですか?」

「こら! おじさんに年齢を聞いてはいけませんよ」

 悪戯な笑顔付きでコップを渡された。
 先生がおじさんだなんてとんでもないが、わたしもあのボトルは使えないと思う。デザインの対象年齢は小学校低学年くらいだ。

「浅見さんはひとりっ子ですか?」

「はい。わたしも妹や弟が欲しかったです」

「兄や姉ではなく?」

「……はい、お兄さんみたいな幼馴染みがいるので」

 膝上のカップを見下ろし、そこへ映り込む頼りないわたしはゆらゆら揺れる。

「両親も彼にわたしの面倒を任せようとします。彼には将来の目標があって忙しいのに、足を引っ張ってしまって」

 語るうち、涼くんへの申し訳無さが溢れてきた。