胸に手を当て、微笑む。

「ーー彼女は随分前に亡くなりましたが。あまり思い出したくない話なので触れないで下さいますか?」

 プライベートな部分を覗かせた直後、さっと閉じてしまった。それからわたしへ投げかける。

「校長先生から話を伺っています。私で良ければ話し相手になりますよ。ただ無理強いはしません。浅見さんが話しても良いと思える事柄をゆっくり探すことから始めましょう?」

 保健室のドアを開け、招き入れた。写真の下りは、話したくなければ話さなくて良いとお手本だ。

「宜しくお願いします」

 頭を下げ、用意された椅子に腰掛ける。ベッドが2台とデスク、薬品棚が設置された室内は白色を基調とし消毒の臭いが漂う。
 担任教師の煙草の臭いといい、神経が昂っているのか臭いに敏感だ。

「はは、緊張しないで下さい。あぁ、私は柊と申します。鬼月学園で保健医をしていまして、こちらへは月に一度カウンセリングをしに通っています」

 胸のネームプレートを指差し、自己紹介。わたしも把握されているだろうが名乗っておく。

「浅見桜子です。柊先生のカウンセリングは凄く人気と聞きました」

「それはカウンセリング目当てというより、私が鬼月学園の関係者であるのが大きいですね。皆さん、学園内の様子を聞きたがりますので。
さて、こちらアンケートです。答えられる範囲でいいので記入して下さい」

 さらりと社交辞令をかわされた。
 学年、氏名を綴り、相談内容の欄でペンが止まる。