落ちたファイルから1枚、足元へ滑ってくる。古い写真だ。

「自分で拾いますので結構ですよーー浅見桜子さん」

 拾おうとしたら穏やかな口調で辞退され、白衣の人物がわたしの名を呼ぶ。

「カウンセリングの時間になってもいらっしゃらないので教室へ様子を見に行く途中でした。顔色が良くないですね、気分が優れませんか?」

 高橋さんが言った通り、スクールカウンセラーの顔立ちはかなり整っており、男性なのに美しいという表現が合う。

「浅見桜子さん?」

 首を傾げ様子を伺う仕草すらドラマのいち場面みたくスマートだ。

「浅見桜子さん?」

 繰り返されるまで見入ってしまった。

「は、はい! すいません、ぼーっとして。でももう大丈夫です! 平気です!」

「そうですか? ひとまず保健室へどうぞ」

 血を飲みたいとの呟きをここで掘り下げはしないらしい。なんならそのまま気に留めないで欲しい。

 白衣の後へ続くと、艷やかな黒髪に午後の日射しが絡まってきらきらしている。

 鬼月学園の保健医と聞いたが、四鬼さんといい学園には見目麗しい人材しか居ないのだろうか。

「あの、写真に写っていた女の人、キレイですね」

 じっくり見た訳じゃないが写真はモノクロで着物姿の女性が撮影されていた。拾い上げた際、胸ポケットへしまって、大切にしているのだろうと察する。

「彼女は私がその昔、愛した人です」