「この後は保健室に行こうと思ってるの」 

「え、体調悪いの?」

「ううん、そうじゃなくて」

 言い淀む理由に思い当たる節があるのか、高橋さんはポンッと手を打つ。

「……あ、もしかしてスクールカウンセラー?」

 教室にはまだ何人か残っており、わざとじゃないにしろ高橋さんの声は彼女等の関心を引く。

「うちのスクールカウンセラーって鬼月学園の保健医ですっごいイケメンらしいよ!」

 荷物をまとめ席を立とうとすると、高橋さんが机に両手をついて力説を始めた。

「先輩が言うには芸能人みたいだって! イケメンみたさに仮病する子が多くて、校長先生を介さないとカウンセリングの予約出来ないの」

「そ、そうなんだね」

「予約取れるとか、浅見さん凄い!」

「いや、予約は先生が……」

 高橋さんの手の下に鞄が挟まってしまい、動けない。それとなく引っ張ってみると高橋さんの顔ごと寄せられた。

 高橋さんは近い距離で微笑む。

「へぇ、もう先生に取り入ったんだ? 浅見さんって夏目君といい、イケメン好きでしょ? スクールカウンセラーもチェックしておく?」

 言われた瞬間は意味が分からなかった。そこで高橋さんは笑顔を崩し、単刀直入に尋ねてくる。

「あたし、サッカー部のマネージャーになろうと思ってるんだ。浅見さんさ、夏目君と付き合ってるの? 今朝、一緒に登校してたでしょ? それに彼の携帯を預かってたし」