「いいか? 跡が付く噛み方するなよ? 犬に噛まれたって誤魔化すのも大変なんだぞ」

 ではさっそくと口を開けたところで、待て、がかかる。

「……じゃあ、見えない場所とか?」

 首筋あたりはどうかとジェスチャーをすると、心底嫌な顔をされた。

「んな場所、お前に見せてたまるか。逆に自分が噛まれたらどうなんだ?」

「もし涼くんが噛みたいなら、わたしは構わないかな。涼くんだけ痛いのは不公平だし」

 沈黙ーーのち、深いため息を吐かれる。

「もういい、黙って飲め」

 唇に涼くんの腕が押し当てられ、すくざま歯を立てた。   

 わたしには秘密がある。
 わたしはこんな風に人の血を飲まないと生きていけないのだ。
 両親はおろか、誰にも打ち明けられない吸血行為を涼くんが引き受けてくれ、涼くん以外の血を飲んだことはない。
 
「涼くんの血、美味しくて甘い」

 可能な限り、優しく、優しく食む。わたしの唾液には止血効果があるため、傷口は丁寧に舐めておく。

 本当はもっとたくさん飲みたいけれど、吸いすぎると涼くんが怒ってしまうから。現にベッドに片手をつき、呼吸を荒くしながら充血した目で睨んでくる。

「っ、お前な、がっつき過ぎ」

「あっ」

 まだ舐めていたかったが、腕を引き剥がされた。思わず名残惜しい声をあげてしまい、慌てて口を慎む。

 涼くんの血のお陰で全身に力が巡る。それと同時に理性も働く。