「涼くん! みんながいる前でキスするなんて恥ずかしいじゃない!」

 涼くんの家に向かう途中、わたしは先程のキスについてむくれる。
 ユニホームを着替えに場を離れた涼くんは知らないだろうが、あの後は生温かい視線に晒され続けた。まぁ、主に四鬼さんと柊先生だが。
 ちなみに高橋さんは完膚なきまでに振られたせいか、逆に吹っ切れた様子で視線を寄せた。わたしの事は忘れてしまっているようでも何か引っかかるのか、首を傾げるも何か言ってきたりはしない。

「人前でしても、2人の時にしても恥ずかしがるじゃねぇかよ」

 はぁ、と溜め息をつく涼くん。

「そういう問題じゃないんだけど……」

 意見は食い違うが、手は繋いだまま離さない。

「あれだ、虫除けだ、虫除け」

「え?」

「四鬼千秋とかカウンセラーへの牽制っていうか、最近お前はよく笑うし、その、あれだ、他の奴等がおかしな気を起こさないようにと」

「ぷっ、何言ってるの? 涼くんこそ高橋さんやファンが多いのに。今日だって女の子が沢山応援に来てたじゃない?」

 返した返事が気に入らないらしく、ギュッと指先に力がこもった。

「俺は桜子が居たらいい。他の奴等に好かれても嫌われてもどうだっていい。お前と違う学校に通うようになって心配してるんだ。なんなら俺も転校したいくらいにな」

「転校? 本気?」

「サッカー部の事が無かったら、な。やっぱり今のチームでやっていきたいって改めて思った。それに桜子はサッカーを一生懸命やる俺が好きなんだろう?」

 芯が通った涼くんの判断に感心してしまう。鬼にならず、幼い頃からの夢であるサッカー選手を目指す意志は固くぶれない。