ぎこちなくも形になりつつある着地点の側で涼くんははちみつ漬けを頬張る。

「涼くん! みんな真面目な話をーー」

 マイペースを咎めようとすると後頭部からぐっと引き寄せられて、甘酢っぱさを口移しされた。

「なっ」

 公共の場でキスをする涼くん。多くの目撃者から悲鳴に似た声があがり、サッカー部のマネージャーがすっ飛んでくる。

「夏目君! 一体何をしてるの!」

 高橋さんは顔を真っ赤にし、涼くんの行動を非難した。

「ーー何ってキス。見てなかった?」

「キ、キ、キスって開き直らないで! 見てたわよ!」

「言ったろ? 俺は鬼月学園に彼女がいるってさ。こいつ、四鬼桜子っていうんだ。スゲー可愛いだろ? だから高橋とは付き合えない、分かった?」

 涼くんは平然とした態度で開いた口が塞がらないわたしを紹介する。
 なんだかこの流れ、デジャヴだ。

「やっぱり1日寝かせた方が美味いかも。桜子はどう思う?」

 とか言いながら、ふたつ、みっつと食べていく。わたしが味の感想を答えられないでいたら、また顔を近付ける。

「もっかいする?」

「いやいや、大丈夫です!」

「なんで敬語?」

 動転する理由など分かり切っているくせに。涼くんは含んだ表情で覗き込み、これ以上はさせまいと唇をガードする姿を笑う。

 最近の涼くんはよく笑い、わたしに対しての感情が掴みやすい。

「後は帰ってからしような桜子。着替えてくるからここで待ってろ。母さんがお前に会いたがってるから家に連れて行く」

 立ち尽くし呆然とする高橋さん。額に手をやる四鬼さん、柊先生が肩を竦める中、涼くんは軽やかに去る。

 最初こそ騒いでいた生徒等も涼くんの振る舞いがあまりにもオープンなので、わたし達の交際を受け止めざる得ない。

 誰からか謎の拍手が生まれ、それが大きな祝福の波となり、わたしは飲み込まれた。