「わたしは物じゃない! 四鬼さんも美雪さんも、柊先生だってあなたの道具じゃない!」

 悔しくて叫んでいた。

「残念だが、感情論では一族を率いていけない。私とて一族の駒だ」

 淡々とシャーベットを消費してから、当主はグラスを飲み干す。わたしの怒りを受け止めず、否定や肯定もしない。そのうえ話題を移す。

「さて、上に部屋をとってある。行こうか」

「は?」

「まだ子を成す予定はないが、姫が誰の物なのか、はっきりさせよう」

「わたしは物じゃ……」

「何度も言わせないでおくれ。我々が生きていくには感情だけでは駄目なのだよ。姫には四鬼の立派な跡継ぎを産む義務がある」

「跡継ぎなら四鬼さんがいます!」

「人との間にもうけた千秋、鬼姫が授ける子、一族の長としてどちらが相応しいのか。父親の私にあえて言わせるのかい?」

 話が通じない。給仕が当主の椅子を引くと、ふぁさり、紙ナプキンを床へ落として踏みつけた。まるでこれまで他者を踏みにじって生きてきたように。

「嫌、あなただけは嫌!」

 離席を試みたが、あっさり当主に捕まった。

「嫌いで結構。千秋が稀なだけで、私の父親、祖父とて鬼姫に懸想を抱いてなどいなかったからな」

「……だから、わたしはあなた達の代では姿を表さなかったのね」

「そうかもしれない。だが、現れた以上は一族の役に立って貰おう。それが約束だ、鬼姫」

「離して、触らないで!」

 力を加減せず当主を振り払う。と、甘い香りを濃くしてきた。