約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される



「まさか姫におねだりされるとは嬉しいよ」

 ものの数時間後、わたしは沖縄の地に到着していた。

「お仕事なのにすいません」

「構わないよ。私はこれから商談に向かうが姫は病院へ行きなさい、車は用意してある」

 国内外問わず飛び回る当主。今回は沖縄に用事があったところ、美雪さんの計らいで同行できる。渡りに船がかない、結果的に柊先生やおばさんよりも先に涼くんと会えそうだ。

「お見舞いが済んだら食事でもどうかな?」

「わ、わたしとですか?」

「姫以外に誰が居るの?」

 当主には仕事関係者が数人付き添っているが、彼等と食事をする気はないらしい。機内でも会話という会話はしていなかったように見えた。

「おねだりを聞き入れたご褒美は頂きたいものだね」

 そう言われてしまうと断れない。すると当主は沈黙を了承と受け取り、にっこり微笑んだ。
 わたしはどうもこの笑顔が苦手で、上手く返せない。

「帰りの車も手配しておく。あぁ、今夜は美味しい酒が飲めそうだ」

 付き添いの1人が当主を呼び止めようとしたらさっと話を打ち切り、浮かべた笑顔も回収。
 美味しいお酒が飲めるというのは商談の成功を確信してなのか、それともーー考えかけ、ぶるっと震えた。
 とにかく今は涼くんの元へ駆け付けたい。

「あぁ、そうだ、そうだ」

 当主は車に乗り込む間際、思い付いた声をわざとらしく出す。わたしを姫と呼んだり、いちいち芝居がかった振る舞いに嫌悪感を抱くも堪える。

「なんでしょうか?」

「夏目君、良くなるといいね」

 取って付けたにも程がある言葉を真顔で添えた。

 当主は涼くんの生死に微塵も興味がなく、単にわたしのご機嫌を取りたいだけなのだろう。それが堪らなく不快で気味が悪い。

 沖縄のカラッとした空気に当主が発する湿度が絡む。わたしは無言のまま頭を下げ、当主の乗せた車の発進を急かす。

 そして車が見えなくなると空へ息を吐き出した。