その時、沖縄への移動手段が整ったとノックがされた。

「それじゃあ行ってくるわね。帰ってきたら涼と3人でお茶でもしましょう。私、桜子ちゃんがとても気に入ったの。初めて会ったのに不思議な気持ち」

 まじまじとわたしをみ、失ったはずの記憶を探しているみたい。

「ふふ、私に娘がいたら、こんな気持ちになるのかしらね」

 わたしに関する思い出が抜け落ちていようと、そんな風に想ってくれるなんて。
 わたしもおばさんを2人目のお母さんだと思っているよ、声にはしなかったが頷いた。

 それから、おばさんは柊先生に連れられ出ていった。

 あぁ、忘れてられていてもいいからお父さんとお母さんにも会いたい、涼くんに会いたい。偽物だけど4人の桜子でありたい。

「あなた、沖縄に行きたいんでしょ?」

 先生等と入れ違いでその声が響く。ばっと振り向けばーー美雪さんが立っていた。

「ーーして、ここに?」

「お忍びで妹が兄の職場に来てはいけないの?」

 その白い制服姿で校内を歩いて、お忍びとは言い難い。

「いけなくは、ないですけど」

「言っとくけど千秋目当てで来た訳じゃないから勘違いしないでね。お兄ちゃんに用事があったの」

 であれば、前もって連絡すればいいのに。

「先生は……」

「知ってる。夏目涼が事故に遭ったんでしょ? お兄ちゃんは付き添いで沖縄に行くのよね?」

 美雪さんはわたしをしっかり認識しており、状況も把握している。尚更、此処へ寄った理由は何だろう。