お母さんはまだ涼くんとわたしが仲の良い幼馴染みと思っている。涼くんの家族とは旅行へ行ったり、庭でバーベキューをする付き合いがあるからだ。

 先月も卒業と入学を祝う食事会が開かれた。ただし、涼くんはサッカーの練習を口実に来ていない。きっと、こういう交流が疎ましいんだろう。友達やチームメイトにからかわれているのかも。

「迷惑? 何よ、よそよそしいわね。昔から桜子は涼くんにおんぶに抱っこ、涼くんの妹のようなものじゃない」

「だからそれが嫌だって言ってるの!」

 わたしが触れられたくない部分を無神経に踏み抜かれ、椅子を蹴って言い返す。
 するとお母さんが視線を横へ流した。

「おはようございます。インターフォン鳴らなくて。声は掛けたんですけど……すいません」

 知らない間に涼くんが立っている。

「あぁ、インターフォン! 昨日の件で壊れちゃったみたいなの。桜子、涼くんが朝練をやめて一緒に登校してくれるそうよ、早く支度しなさい!」