渦中の中心が現れ、2人は固まる。それとは対照的に白衣の裾が靡く。

「はっ、丁度いい所に来たわね! あなた、一体どういうつもり?」

 さっそく美雪さんが詰め寄ってきた。わたしの着ている白衣が先生の物と分かり、ますます嫌悪を滲ませる。

「千秋もお兄ちゃんも、それから夏目って人まで手玉にとるなんて鬼姫って節操ないわね!」

「美雪、やめるんだ」

「間違った事言ってる? あたしは千秋だけでいい、他には誰も必要ないの。どうしてこの人だけ好かれる訳? 鬼姫がそんなに偉い? 鬼の子を産むだけの女が大事?」

 四鬼さんにさも当然と庇われるわたしに敵意を隠さない。

「桜子ちゃんを侮辱するな」

「千秋に聞いてない! あなた、千秋を幸せにできる? する気ある? その覚悟がないなら消えて! あたしと千秋の前から消えてよ! 千秋を傷つけないで!」

 心の底からの叫びが目の前の四鬼さんを貫通し、わたしへ届く。美雪さんが本当に四鬼さんが好きなんだと痛いくらい伝わる。

「美雪、やめてくれ。お願いだ」

「なんで、あたしにそういう顔するの? あたしが嫌い? 小さい頃からずっと一緒だったよね? 結婚するって約束したじゃない!」

「君が許嫁だったのは確かだけど仮初だ。鬼姫が見付かれば解消される契約だったはず。何度も言わせないでくれ」

「仮初……契約……」

 大粒の涙が頬を伝う美雪さんは絶望する。

 夜闇の中でも充分な存在感を放つ彼女を四鬼さんはどこまでも突き放す。

「僕ともだけど、美雪は鬼姫との接触を禁じられているはずだ。金輪際、関わらないでくれ」

 言うと四鬼さんが踵を返し、わたしの手を取った。

「あ、あのーー」

「美雪は柊に頼むから行こう」

 何処へ、とは聞けない。促されるまま誘導される。
 美雪さんが顔を覆って崩れるのが見え、悲しいまでに澄み切った星空から1筋流れ落ちた。