「同意って……涼くんに話したんですか?」

「はい」

 あっさり認めるので拍子抜けする。

「私達の秘密を口外した場合どうなるかも合わせて説明しました」

「バラしたらどうなるんです?」

「私の口からは穏やかな結末ではない、とだけ。彼も自分の血の事が知れて良かったのではないでしょうか?」

「そ、そんなの知らない方がいいに決まってます」

 これまで普通に暮らしてきて、実は血を飲む鬼になるかもしれないと告げられた心中は察して余る。
 悔しい。シーツを握り、しわにする。

「涼くんはこんなファンタジーな事を信じたんですか?」

「それはご自分で確かめてみては? それから夏目君ばかりにかまけていないで、千秋様の様子も見てあげてくれませんか? あの方は当主に土下座までして、夏目君への秘密の口外を願い出たのですから」

「四鬼さんが土下座?」

「無論、千秋様自身の血を与える方法を取ろうとしてましたよ。しかし、あの状態では夏目君の血が適していた。あなたが助かるならばと大嫌いな相手に膝をつき、恋敵には頭を下げる男の心は如何ほどか?」

 この書面作成には四鬼さんの父親である当主が関わっているそうだ。他者へ鬼の存在を口外するというのは一族全体に関わり、四鬼さん達だけで判断がつけられないみたい。

「鬼の血が全く入っていない相手であれば当主は許可をしなかった。許可がおりないていう事はーーみなまで言わなくとも分かりますよね?」 

 わたしは死んでいたかもしれない。

「一族は鬼姫が居なくともそれなりにはやってはいけるのです」

 であれば尚更、涼くんを巻き込んでいい理由はない。
 黙るわたしに柊先生はそっと頭へ手を乗せてきた。

「罰は私が受けましょう。ただ千秋様は許してあげてくれませんか? きっと今頃、屋上で泣いていますよ」