「浅見さんのお怒りは承知してます。しかしながら、あの状態を放ってはおけませんでした」

「鬼姫に死なれては困りますもんね?」

「だから!」

「しっ、もう千秋様は一旦外に出て下さい。ここは私が説明しましょう」

 先生の提案に四鬼さんは無言で出ていく。それでも去り際、わたしの手を優しく撫でて指輪が淋しげに光っていた。

「千秋様はまともに寝てらっしゃらないので無礼は許してあげて下さい。眠り姫の甘い包容を期待していたんでしょうが、やはりこうなりますよね」

 わざとらしく両手を掲げ、ベッドの隅に腰掛ける。やはり反省の色は伝わらない。なんなら医師として当たり前の処置をしたまでと開き直る。

「ふざけないで下さい」

「夏目君の血の効果は素晴らしい。肉体だけでなく理性もきちんと回復していますね」

「涼くんを巻き込みたくないって話したはずです! 鬼になったら、最悪死んでしまったら取り返しがつかないんです! なのに!」

 理性という罪悪感で胸が痛い。

「心配しなくとも夏目君は無事ですよ」

「そういう事を言ってるんじゃーー」

 食い下がるわたしに先生が1枚の書面を差し出す。

「夏目君には同意を得てます。浅見さんに血を分け与えるリスクをきちんとお話した上、署名を頂きました」