ただならぬ空気感に涼くんは言葉を無くすも、ドア付近で固まってしまうわたしを庭へ退避させた。

 庭は季節の花で彩られる。お祖母ちゃんの影響を受け、わたしも育てているのだ。お祖母ちゃんに比べたら未熟で小さな庭だけど、ここは落ち着く。
 大きく息を吸い、吐く。

 あぁ、尊敬するお祖母ちゃんがあんな事になってしまうなんて。

 自分の身に起きた出来事をどう説明したらいいのだろうか。面倒に巻き込まれたって怒るかもしれない 涼くんは超常現象やオカルト要素を全く信じないからだ。
 【鬼】を見たと言って、どういうリアクションをとるかは想像に難くない。

 あれから動きがない玄関を伺おうとすると、ふいに花の香りから汗の匂いに包まれた。

「……良かった、お前が無事で。心配させんなよ」

 涼くんがわたしを抱き締める。
 いちにもなく助けにきて、身を案じてくれる相手に対し、失礼な考えを巡らせてしまった。

「ごめんね、涼くん」

「いちいち謝んな。昔からだろ、助けてやるのは」

「うん、いつも迷惑かけてごめんね」

 そうだ、涼くんはわたしが泣いたり困ったりしたら必ず力を貸してくれる。

「ーーそれで何があった? 強盗が入ったか? 犯人はまだ家の中だろ、警察に通報するぞ」

 わたしも手を回しかけた時、抱擁は解かれた。空振りした腕の行き場が無くなり、涼くんの裾を掴む。今から話す内容で心が離れていきませんように、と。