「何か隠してるはずだ。話せよ、悩んでるんだろ? 1人で抱えないで俺を頼れ。力になる。助けてやるからさ」

「いい、涼くんには言わない、言いたくないの」

 突き放す言葉で涼くんを遠ざける。

「桜子……」

「これ見て」

 それから仕上げとばかりに首筋を晒す。柊先生がつけたキスマークだけど、勘違いするはずだ。
 首に涼くんの視線が絡まり、締め上げられているみたい。苦しい。

「わたし、もう子供じゃない。涼くんに守って貰わなくて大丈夫」

 不本意な言葉を告げる喉が痛みを訴えてきた。しかし、ここまできて後には引けないので、出来うる最大限の笑みを添えておく。

 パキンッーー涼くんが薬を砕いたのと同時、甘い香りは立ち消えた。

「そっか」

 たったひと言の返し「そっか」には沢山の意味が含まれていて、勝手にすればいいじゃないか、四鬼さんと仲良くしたらいい、そんな人間とは思わなかったーーそして桜子悪かったな、って思ってる。
 こんな時に限って、ぶっきらぼうな態度を取らなかった。

 教室を出ていく涼くんがスローモーションに映る。この大きく頼もしい背中へ縋り助けてって言えば、面倒そうな顔しながらも手を差し伸べてくれる映像が浮かぶ。

 何が沖縄? 水着? はしゃいでいた自分に嫌悪する。

 こうして涼くんを散々傷付けておいて楽しむ資格などなく、まして涙を流す権利はない。