約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

「消毒だっけ? 涼くん、本気で言ってるの?」

 高橋さんはわたしが噛んだ箇所にキスマークをつけさせ、それを消毒と言っていた。涼くんが高橋さんとのキスを上書きしようとするのも消毒なんだろうか。
 だとすれば、こんな失礼なキスはない。

「涼くんが本気でしたいならいいよ。今まで血を貰ってきて、秘密を守ってくれる人に拒めない。高橋さんが涼くんにしている事を、涼くんがわたしにするだけの話だよね?」

 脅されて、命令されてのキスに意味はないし価値もない。でも、それで涼くんが慰められるなら甘んじて受け入れよう。
 涼くんがしてくれた事に比べれば、ファーストキスを捧げても足らないはずだ。

「したくなければそう言えばいいじゃねぇか。嫌味ったらしいな」

 諦め、瞳を閉じようとすると遮られる。

「わたしの為に高橋さんと付き合ったりしないで。涼くんが傷付くだけじゃない? こんな条件付きのキスは悲しい」

 条件付きのキスーーこの言葉に涼くんがぐっと表情を歪める。分かってる、わたしが涼くんを一番傷付けているんだよね。
 
「高橋を噛んだって知られれば、どんな目で見られるのか分かってるのか?」

 それも承知していると頷く。たとえ今より学校に居辛くなろうと構わない。涼くんを犠牲にしてまで学校生活を成り立たせたくないから。

「お前、本当に俺が要らなくなったんだ」

 暫く黙った後、呟く。

「四鬼千秋が桜子を強くしたのかよ。俺はどんどん弱くなってるのに」

「涼くんが弱いなんーー」

 言いかけ、語尾が潰れた。涼くんが泣いてしまいそうに震えている。