約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

「うるせーな、忘れ物取りに来ただけだって何度も言わせるなよ」

 荒々しくドアが開けられた。目一杯身体を折り畳み、息を潜める。

「浅見さんを泣かせたの怒ってるでしょ? 言っとくけど勝手に泣いたんだからね。あたし、何も意地悪してない」

「あいつを泣かせたのは俺だろ」

 涼くんが机を漁る音をさせながら平坦な口調で返す。目的のものが見当たらないのか、ガタガタ揺らし始めた。

「何を忘れたの? 早く練習にも戻らないと怒られるよ?」

「先生に怒られたくなきゃ付いてくるなって。薬だよ、薬」

「薬? 風邪でも引いたの?」

「そんなところ。やっぱケースとかに入れておかねぇと失くすか」

 何の薬だろう? わたしは微かに漂う甘い香りを察知し、涼くんの体調を伺う。と、足元に銀色の包みが落ちていたのに気が付く。

 それをそっと拾い上げ、息を飲む。わたしと服用している薬だったのだ。

「諦めるしかないなーーって高橋、ひっつくなよ!」

「えー、いいじゃん。あたし等、付き合ってるんだもん。涼君の背中、大きいー」

「付き合わないと桜子の秘密をバラすって脅したくせによく言えるな。強制的に彼氏にして嬉しいか?」

 わたしの秘密をバラす? 涼くんを脅す? 不穏なやりとりに包み紙を握る手に力がこもる。