「約束、指切りしよう」

 小指を差し出す。ずっと変わらず涼くんの側にいられますように、と。

「桜子がお嫁さんかぁ」

「嫌なの? 涼くんは桜子と結婚したくない?」

「おじさんに反対されそうだ。で、泣かれる」

「もしも、お父さんが駄目っていったら駆け落ちしたらいいんだよ!」

「駆け落ちって、よくそんな言葉を知ってるなぁ。それじゃあ桜子、約束だぞ? 桜子は俺のお嫁さんになるんだ」

「うん! 約束ーーやく、そく?」

「桜子?」

 涼くんが約束を交わしてくれそうな瞬間、小指同士が絡まる寸前、突如わたしは例の吸血欲求に襲われたのだ。まるで約束が成立するのを邪魔するように。

 涼くんを思い切り突き飛ばすと、いちにもなく彼の首へ噛みつく。

「さ、桜子! 痛い、痛い! やめろ! 危ないって!」

 白昼堂々、わたしは道路の真ん中で四つん這いとなり涼くんを襲う。唸りを上げ、自我を喪失し、血を得ることしか考えられない。

 涼くんからしてみればどれだけ恐ろしかったであろう。

「なぁ、桜子? どうした? 何があった?」

 それでも豹変した幼馴染みを振りほどかず必死に呼び掛け、理性を呼び戻そうとする。それが叶わない察すれば人の目に触れにくい場所へ移動した。

「ど、どうしちゃったんだよ、桜子」

「うー、うー、うっ」

 獣みたく唸るわたしはモンスターだ。

「血を飲んでるのか? 目が赤くなってるぞ。どうしたんだよ」