「なぁ、お前の描いた絵が入賞したらしいぜ。みんなでお花見に行った時の絵だ」

「本当? 嬉しい! あの桜、とっても上手く描けたから気に入ってたんだ」

 激しい運動を禁じられるわたしは自然と絵筆を持つようになり、校内のコンクールで良い成果を上げる事もあった。
 これは学校生活を少しでも楽しめるようにとの忖度も否定できないが、対象の絵に限っては桜の訴えを描けたと今もなお自負する。

「あの絵、おじさんは家宝にするとか言い出しそうだな」 

「かほう?」

「家の宝物だって意味。俺もあの絵は凄いと思う」

「宝物、か。あの桜は待ってるんだ」

「待ってるって何を?」

「好きな人が迎えに来てくれるのを待ってるって言ってた。桜子には涼くんがいるし、あの桜も待っている人が早く来るといいね! 完成した絵を見せてあげたいな」

 ここでわたしは思い付くんだ。

「そうだ、絵が帰ってきたらさ、涼くんが絵を持っていて」

「俺が? おじさんに渡さなくていいのか? 桜子コレクションのひとつになるだろ」

「いいの、いいの。涼くんの家宝になれば桜子の家の家宝でもあるでしょ? 桜子は涼くんのお嫁さんになるんだから。涼くんにあげる」

 小さなわたしは少なくとも本気でそう言っていた。そして涼くんも嫌がらないでいてくれる。