約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される



「ねぇ、涼くん! 涼くんってば! 待ってよ、置いていかないでよ」 

 ーーこれはわたしの泣き声。
 吸血行動に目覚めた遠い記憶が夢の世界へ映し出される。

「桜子は熱があるだろ? 家で待ってろ」

 この日、体調を崩したわたしの為に涼くんはおかゆを作ってくれようとしていた。両親が共働きで、わたしの看病を涼くんが請け負う事は珍しくない。

「白いおかゆでいい!」

「たまごがないとお前、食べないじゃないか!」

「食べるもん」

「いいや絶対食べないね。走って買ってくるから待ってろって」

「いや! 桜子も一緒に行く!」

 たまごを切らしていた為、買い出しに出ようとする涼くんを後追い。裸足で道路まで付いてきたわたしに彼は肩を落とす。

「しょうがねぇな」

 今は食べる機会がないが、涼くんの作るたまご粥は思い出の味だ。優しくて温かい気持ちになれる。

「たまごを買うついでにサッカーチップスも買おう! 涼くんの好きな選手が出るといいね」

「サッカーチップスが目的じゃないだろうな」

 我ながら微笑ましい光景だと思う。幼い涼くんの感情が読み取りやすく、わたしも素直に気持ちを伝えられた。

 どちらからともなく手を繋ぎ、近所のスーパーへ買い物に行く後ろ姿が懐かしい。