約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

 視覚が奪われた事で五感が冴える。先生の冷たい指先が頬へ添えられた。

「いけませんね、こうも罠にかかりやすくては」

「罠? わたしをどうするんですか?」

「やはり体験して頂きます」

 制服のスカーフを引っ張られるも手足が鉛みたいに重くて操れない。汗ばむ髪を後ろへさらわれた。

「夏目君に与えていたドリンクには鬼化を防ぐ作用があります。それが幸いしました」

「涼くんは鬼になってないって、言いましたよね?」

「今のところは、です。彼は高橋さんに噛みつきました」

 つん、首筋を押された。

「性交渉中、興奮が極まった等々でパートナーに噛み付いてしまう方もいるにはいますが、夏目君は初手で噛んだそうですよ。さぞ高橋さんも困惑したでしょうね、お察しします」

「涼くんと高橋さんがーー」

 昨日、涼くんはわたしへ好きだと告げたばかりなのに。高橋さんともうそんな行為をしたなんて。

「庇う訳ではありませんが、弱った時に優しくされれば靡いてしまいがちです。それからこういう事をするのに好意が必ずや必要かと言えばそうでもない」

 ふわっと甘い香りが接近してきて、先生がわたしの首に柔らかな痺れを与えた。

「な、なにを?」

「夏目君が高橋さんに付けたよう、私もつけてみました。キスマークです」

「キスマーク!」