約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

 頭の中が血への渇望で支配され、冷静な判断を下せなくなっている。
 すると先生は抵抗をやめ、ネクタイを自ら解いて首元を露出させた。 

「先生?」

「優しくして下さいね、浅見さん。知識としては知っていますが、鬼に噛まれるのは初めてなんですよ」

 そんな誘惑に浅ましく喉が鳴らしてしまう。

「どうぞ」

 血が飲める絶好のチャンスを得たのに、何故か止まったはずの涙が込み上げてくる。

「浅見さん?」

「ほん、とは涼くんの血がいい、涼くんの血が飲みたいよ」

 言いながら先生の膝を滑り落ちた。

「浅見さんも夏目君以外の血を受け入れないと生きていけませんよ」

「それでも涼くんの血がいいんです!」

「無茶を言わないで。夏目君を鬼にする気ですか?」

「っ! 嫌です! それだけは堪えられない! 鬼になったらこんな目に遭うのに」

「彼は覚醒しつつありますが、まだ鬼にはなってません。高橋さんの手当しましたが、血を吸った形跡はありませんでした」

 血を飲んでいない? 視野が一瞬拓ける。

「良かった、涼くんは鬼になってない」

 ますます力が抜け、床に寝そべってしまう。血が足らなくて動けないが、目の奥も冷えたのでこのまま眠ってしまいたい。

「安心するのは早い。鬼にならないとは言ってません。吸血の他に活力をつける方法を教えましたよね?」

 先生も椅子から降り、しゃがんだ状態でわたしを見下ろす。鬼姫の力による金縛りが解けたみたい。先生は打って変わり捕食者となり、放ってあったネクタイを拾うと目を覆われた。