約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

「涼くんに何をしたんですか? 先生」

 自然と低い声が出た。涼くんに妙な真似したら許さない。
 後ずさりする先生を詰める形で入室して、睨む。

「これは凄いプレッシャーですね、肺が圧迫される」

 先生は胸を抑え、椅子へ座る。わたしも睨みから外さないよう正面に着席。赤く染まっているであろう瞳を突き付けた。

「先生、答えて。涼くんに何を?」

「っ……言います、言いますので力を鎮めて。血が沸騰しそうだ」

 ただ睨んでいるだけなのに、この悶えよう。いつも飄々とする先生が脂汗をかいて苦しむ様がわたしの鬼に火を灯す。
 ガッと先生の前髪を鷲掴み、苦悶を隅々まで眺めてみた。

「先生、苦しいの?」

 分かりきった質問をわざとして、先生の喉を動かしたい。血管が浮き出てきた首を凝視する。

「挑発し過ぎましたね。お許し下さい、鬼姫様」

「血が飲みたいな」

 素直な欲求を口にするのと同時に絶望する。
 わたしはどうしたって吸血欲求に逆らえない。血が飲みたい、血が飲みたい、血が飲みたい。

「本当は涼くんの血しか飲みたくないけど、鬼にしたくないから飲めない。はは、でも涼くんが高橋さんを噛んじゃったんだって? わたしのせいで涼くん、鬼になっちゃったんですよね?」

「そ、それは誤解で、す」

「血を飲まないと考えが纏まりそうにないです。もう先生の血でいいや」

 先生の膝の上に片足を乗せ、あーんと口を開く。きっと先生の血は涼くんの血より美味しくないだろう。

 でも涼くんは高橋さんと付き合うし血は貰えない。困ったなぁ。
 いやいや、そうじゃなくて。わたしのせいで鬼になってしまったかもしれないんだ。

 こんな事をしている場合じゃない。