保健室の前に着き、そっと降ろす前に先生が脇腹を撫でてきた。

「きゃっ! な、なにを」

 偶然ではない手付きにたじろぐと微笑む。

「こ、こういうのはセクハラって言うんですよ! セクハラも一族が揉み消してくれるんですか?」

「セクハラはどうでしょう? 女性という食料には優しくしないと叱られてしまいます」

 のらりくらり、先生はかわす。ぎゃあぎゃあ言っているだけで力が入らないと見破られている。

「飼い鳥は風切羽を切ってしまうのだそうです。そうすれば飛べなくなり、飼育しやすいですからね」

「わたしは鳥じゃありません」

「例えがお気に召しませんでしたか? ならば仔猫にしましょう。あなたの首には鈴が付けられています。何処にも逃げられませんし、逃しません。ですので、どうか鬼の男等を気まぐれに構い、愛らしく鳴いて下さい。浅見さんに出来るのはそれくらいでしょう」

 話しているうち、涙が引っ込んでしまった。一族に飼い殺しにされると言われれば涙も乾く。

「夏目涼君の件を知りたければ中へどうぞ」

「こんな警戒させることばかり言われたら入れませんけど?」

「では美味しいお茶をご用意しますよ」

「も、もっと入りにくいです! また変な効果があるのを飲ませる気ですか?」

「変な効果とは心外ですね。きちんと研究をして裏付けされたものですよ。そうそう、夏目涼君が飲んでいたスポーツドリンクも私が開発しました」

 そういえば涼くんは血を与えた後などにスポーツドリンクを飲んでいた。

【? それ、見慣れないスポーツドリンクだね】
【だろうな、市販はされてない】

 あの時のやりとりを呼び起こす。

 そしてスイッチが入った。