目の奥が痛い、頭がボーッとする、身体が重い。

「貧血の症状が出てますね。血は?」

「涼くんの血はもう飲みません、そう決めたんです」

「よく我慢できましたね。偉い、偉い」

「全然偉くなんかないです」

 壁を伝い、その場に座り込んでしまいそうになると先生が膝裏へ手を入れてきた。

「せ、先生!」

「お姫様抱っこを他の生徒に見られたくなければ、じっとしていて下さい。泣きながら走り回ったせいで大分消耗しているでしょう?」

「お、降ろして。自分で歩けます」

「駄目。せっかく私にも騎士の役割が回ってきたんです」

 相変わらずお手本通りの笑顔。こんな近くで瞳を覗いても本音が伺えない。

「先生は四鬼家や分家を見返したくて、わたしを利用したいんじゃないんですか?」

「どうでしょう? 昨日お伝えした事の2割は真実です。で、その真実のひとつ、私は浅見さんの幸せを願っていますよ」

「四鬼さんにも言いましたけど、わたしは一族に加わると決めてませんし、結婚なんて考えられませんので」

「既にあなたは四鬼家の庇護下に置かれています。鬼姫の言葉を借りれば監視下です。浅見さんは因われた鳥、自由な空を飛ぶ事は叶いません」

 先生が窓を仰ぐ。とある1羽が青空を水平に横切って、それを眩しそうに追う。