「ちゃんと答えて! 大事なことだよ?」

「大事? いちいちお前に話す必要ない。責任とって高橋と付き合うことになった。それでいいだろ?」

「責任って……夏目くん! 人を噛むなんて、それって血をーー」

「あー! お前、うるせぇんだよ!」

 遮られたうえ怒鳴られ、身体が硬直する。

「もう俺に関わらないでくれ。頼むから」

 あっちに行けと手を払った後、再び突っ伏す。肩で息をしていて苦しそうだ。この倦怠感は部活のせいじゃない。

 涼くんはもしかして鬼に? 高橋さんの血を本当に飲んだの? 踏み込んで聞かなきゃいけないのに大切な言葉ほど喉に張り付く。

「ど、どうしよう。わたしのせいだ。わたしのせいで……」

 高橋さんが勝ち誇った顔でわたしの様子を覗き込もうとしているのが分かったが、ショックを隠しきれない。目の奥が熱くなる。

「涼君から聞いた? あたし達、付き合う事にしたーーって、浅見さん泣いてるの?」

 涼くんもはっとしてこちらを見上げ、苦しげな姿に涙が溢れて止まらない。

「んで、桜子が泣くんだよ? 俺が悪いのかよ?」

「違う、悪くない。わたしが悪い。ごめん、ごめんなさい」

「おーい、HR始めるぞー」

 会話の途中で担任の先生がやってきた。教室内の空気感を全く気にしないで、それぞれへ着席を指示する。

「お、おい! 浅見! どこに行く?」

 わたしはみんなの流れに逆らい、教室を飛び出していた。