教室に入ると直にHRが始まるというのに騒がしかった。中央で高橋さんが囲まれている。
 通り魔が逮捕されたのをみんなで喜んでいるのかもしれないと予想し、わたしは関わらないよう席へ向かおうとした。
 ーーが、首に包帯を巻く姿が視界に入り、足が止まる。

「あら、おはよう! 浅見さん!」

「高橋さん、首はどうしたの?」

 取り巻きを含めた視線がわたしに集中した。まず通り魔が捕まった話をするのが礼儀だろう。しかし、その痛々しい包帯が気に掛かって仕方がない。微かに傷から甘い香りが発せられ胸騒ぎに拍車をかける。

「あぁ、これね? ちょっと噛まれちゃって」

「噛まれた?」

「まぁ、うん」

 高橋さんはわたしにだけ追えるよう目線を涼くんへ流す。クラスメートの同調圧力を無視し、すぐさま突っ伏した彼を叩く。

「涼くん!」

「夏目君じゃないのか?」

「……夏目君、ちょっと」

 朝練の後だからか、涼くんの身体は熱を保ったまま呼吸も整っていない。

「なんだよ?」

「なんだよじゃないよ! 高橋さんのーー噛んだって聞いたけど?」

 だるそうに身体を起こす涼くん。わたしと目を合わせようとしない。

 周囲に拾われない小声で尋ねたが無視される。