この時間、家の中は静まり返っており、お父さんは単身赴任中、お母さんは近所のショッピングモールでパートをしている。

 締め切っていた室内は薄暗く、生暖かい。

「鍵を閉めて」

「え、あ、うん」

「チェーンもかけて」

 きちんと施錠をしたか確認して、お祖母ちゃんはすたすたキッチンへ向かう。来客用のスリッパを履いてくれない。
 そればかりか後を追うとグラスの水を立て続けに飲み干していた。わたしも喉が乾いていたものの、お祖母ちゃんの飲みっぷりに呆気にとられてしまう。

「お祖母ちゃん、何かあった?」

 やっぱり様子が変だ。
 普段は物静かであまり感情を表に出さないお祖母ちゃんから怒りが滲み、シンクの縁を掴んでギュッギュッと鳴らす。

「お父さんが仕事先で怪我をしたみたいでね、お母さんは身の回りの世話をする為に暫く家を開ける事になったんだよ」

 こちらに背を向けたまま言う。

「え、お父さんが怪我?」

 携帯を見ても着信やメールはない。

「もしかしたら緊急事態で連絡が出来ないのかも?」

 ともかく無事を確かめよう、まずお母さんの番号をコールした時だった。
 お祖母ちゃんはおもむろに戸棚を開け、収納されていた包丁を持ち、わたしへ振り返るのと同時に投げ付けてくる。

 携帯を当てた頬の側を包丁が掠め、空気を切り裂く音にわたしは腰を抜かす。