約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

 涼くんの腕を振り払い、俯いた。結果的に論点ずらしが成功したけれど虚しい。ひたすら虚しい。

「今後一切、俺の血は要らないって意味か?」

「わたしが飲まなくなれば貧血の症状は改善して、サッカーにもっと打ち込めると思う。その方が良いに決まってる」

「マジで俺の話を聞いてないな。貧血をお前のせいにした? それが原因でサッカーが出来なくなったか?」

 していない、だから辛いんだってば。

「……飲まない、涼くんの血はいらない」

 血を飲まなくても生活できる方法があるかも知れないと思い、鬼の一族と会った。キスやハグなどをすれば空腹を誤魔化せると知ったが、やっぱり血は飲まないといけない現実を突き付けられる。

「分かった」

「分かってない。本当にいらないの、もう飲まないの」

 涼くんもこちら側だと言われ、わたしのせいで鬼になってしまうかもしれない。最悪、死んでしまう。

「もういい」

 涼くんが優しく前髪を撫でてきた。そしてもう1度繰り返す。

「もういい、桜子。本気なんだよな、顔をみりゃ分かる」

 ふいに名を呼ばれ、胸がギュッと締め付けれた。涼くんの目が久し振りに優しい形で細められていく。

「俺さ、ずっと桜子が好きだった。泣き虫で意地っ張りで全然可愛くないけど、桜子が好きだったんだ」

「涼くん? な、なにいきなり」

 冗談はやめてと遮りかけ、からかっていないと察する。涼くんがこの手の冗談を言うはずない。

「血を飲まないと生きていけないなら、1滴残らずやってもいいと本気で思ってた。他の女なら絶対こんな気持ちにならない」 

 突如、過去形で語り始める。

「最後くらい素直になろうって、な。四鬼千秋みたく甘やかしてやれれば良いんだろうが、あぁいうのは無理。桜子にだけは優しくあろうとしても、この有様だし」

「最後?」

「あぁ、桜子は諦める。どうせ俺じゃ支えられないだろう? やっぱ堪えるんだよ、隠し事されるのって。表に四鬼千秋の関係者がいたぞ。俺の動向を探らせてるのか? バカにすんなよ、お前を傷つけたりしない」

「……ち、違う」

「違わない。なら何?」

 言えない。それはわたしが涼くんの血を得ないかの見張りだろう。

「涼くんが、わたしを好き?」

「ーーだったって話。いきなり言われて困るだろうけど、ケジメつける為に言っただけ。忘れていいし聞かなかった事にしてもいい」