「いい、要らない。もう涼くんの血は飲まない」

「は?」

「わたしがご機嫌伺いしてるって言うけど、涼くんだって血を取引材料にして思い通りにしようとするよね?」

「……取引材料? お前、そんな風に思ってるのか?」

「今だって血を引き合いに出して、言わせようとしてるじゃない!」

「それはお前が下手に隠し事するからだ! あと変な気の回し方も」 

「な、なによ! 下手とか変とか、言わないでよ!」

「実際そうなんだし、しょうがねぇだろ!」

 涼くんはしゃがみ、わたしと視線を合わせた。至近距離で凄まれ、そういう所だよと睨み返す。

「ガキの頃からあんな痛い思いしてさ、血をやってんだぜ。生半可な覚悟で出来るか!」

 いつも噛んでいる腕を口元へ寄せてくる。噛み跡は残っていないものの、文字通り刻んだ月日の記憶が残っている気がする。

「じゃあ覚悟を決めて貧血になったの? 涼くん、病院通ってるんだってね? 私のせいで血が足りなくなってるんでしょ? どうして黙ってたの?」

「は、なんで知ってる? 母さんに聞いたのか?」

「ううん、おばさんは何も言ってない。口止めしてたんでしょ? 貧血だって話してくれなかったのは何故?」

「んな話すれば、飲まなくなるだろうが! だから変な気を回してんじゃねぇって。余計なお世話なんだよ」

「余計じゃないでしょ! サッカー出来なくなったらどうするつもり? わたし、そんな思いまでさせて涼くんの血は欲しくない!」

 何もかもわたしの為なのは承知しているが、涼くんの体調を崩させて自分の生活を成り立たせていたとはーー自己嫌悪で押し潰されそう。

 どう責任を取ればいい? 取れるの?
 今からでも引き返せるなら引き返したい。