「ーー僕は変わりたい、君の為なら変われう。桜子ちゃん、僕は君が何者でも好きだよ。僕はね、この運命ごと好きになるから覚悟していて」

 四鬼さんの目が赤く染まり、わたしはガラス越しに手を合わせていた。
 これまで彼にはたくさんの甘い言葉を告げられたが、今ほど胸を打たれたりしなかった。鬼姫の感覚でなく正真正銘わたしのときめき。ドキドキする。

 四鬼さんが一歩下がったのを合図に車が動き出す。彼は大きく手を振り、見えなくなるまで見送ってくれた。

「いやー長らく運転を任されておりますが、あんな坊ちゃまを見たのは初めてでした」

「え?」

 運転手さんが会釈をしてきて、少々よろしいですかと切り出す。話しかけられるとは予想外で、真っ赤になっているであろう表情を俯かせる。

「運転手とは一族の事情を知る立場ではございません。しかし、坊ちゃまが貴女を大切に想われているのは伝わります。
貧血でお倒れになられた貴女をずっと気にかけ、きちんと病院へお連れしなかったのを後悔していましたよ」

「そ、そうなんですか。知らなかったです」

「坊ちゃまはお優しい。殊に女性に対しては分け隔てなく接します。それでも貴女に対してだけは余裕がなく、まるでお姫様を取られまいと奮闘するようです。
どうぞ、これからもお坊ちゃんと仲良くしてあげて下さい」

 おっとこれ以上言うと叱られてしまいますね、運転手さんは話をやめる。

 わたしが会談の席で浅見桜子として見て欲しい、と言った。四鬼さんはわたしが何者でも好きだと答えをくれる。
 若干噛み合っていないけれど、運転手さんの話が聞いて嬉しかった。