まるでわたしを確認する作業に、どっどっど、鼓動が早まる。
 突き飛ばしてでも逃れなきゃいけないのに
纏わりつく香りが判断を鈍らせた。血を欲して昂る同胞を放っておけないと感じてしまう。

「慈悲深い瞳。あなたは私を哀れんでいる」

 目元を撫でられた。

「私がもっと可哀想な者と知れば、側に居て下さいますか? 愛してくれとは申しません。あなたが側に居てくれたらいい」

 わたしは先生に同情しているつもりはなく、彼もわたし越しの誰かに聞いている。

「分家の中で柊の立場はかなり悪い。小間使いをさせられています。それはいいのですが、妹を弄ばれたり恋人を奪われたのは許せません」

「さっき恋人は居ないって?」

「かつて愛した人は居ました。彼女も私を愛し、鬼となり共に歩むとまで言ってくれたのです。けれど亡くなってーーいえ、殺されました」

 柊先生は熱に浮かされているせいで心の扉が緩み、普段は覗かせない1面を露わにした。

「慎重に吸血を重ね、彼女は鬼に変わろうとしていたのに。当主様が鬼姫として彼女を……」

 最後まで言わなくとも結末が分かった。柊先生は口を覆う。
 先生は愛した人を鬼とする為、鬼姫を活性化するお茶や吸血欲求が抑えられる薬を開発したのだ。けれど当主により未来は潰えてしまう。
 人工的とはいえ鬼の女性。あの当主ならば手元に置きたがるはずだ。

 束縛が弱まり、わたしは半身を起こすと先生を抱き締める。