約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

 先生の物越しが命令形に変わった。お腹に響く低い声音だ。

「鬼姫は私達を服従させる香りを纏い、私達は鬼姫を誘う香りをさせる。健気な花が麗しき蝶を誘うように、ね?」

 甘い、甘い香りがする。これは芳香剤じゃなく、先生から発せられる匂い。

 窓もドアもロックされて開かなかった。はしたいが蹴り上げて距離を保とうとしたが、先生は難なく受け止め、それからなんとローファーへキスする。

「なっ、汚いですよ! やめて下さい」

「なんなら舐めますが?」

 舌を覗かせ、ソールへ這わす真似をしてきた。

「な、舐めーー」

「鬼姫様の靴ならば喜んで舐めます。靴だけでなく、全身に忠誠の口付けを降らせましょう」

 ぐっと片足を引っ張られバランスを崩す。スカートの乱れを咄嗟に気に掛けた隙きを狙われ、後部座席に押し倒された。

 先生が覆い被さってくる。赤い瞳でわたしを見下ろすと、ごくり喉を鳴らした。

 ーーあぁ、先生は飢えているのだろう。
 そう読み取ると途端に不憫に思え、首筋へ寄せられる頭を撫でたくなった。血が欲しくて欲しくて堪らない、あの乾きを慰めてあげてもいい。

 いや、やっぱり良くない。一瞬流されかけたのは香りの仕業か。飢えた苦しみに共感出来でも、だからといって先生とそういう事はしたくない。

「先生、わたしの腕を噛んで下さい」

 先生に腕を押し付ける。ここなら噛まれてもいいと頷きを添えて。