当主は即決せず、考えているようだ。

 柊先生の発言は伏せておけるなら伏せた方が良い内容ばかり。言わなければ、わたしを懐柔しやすくなるのに。何故、オープンにしたのだろう。

 鬼姫は四鬼さんを想っているが、彼女ほど想えないわたしの為? それとも涼くんや美雪さんの扱いに納得がいかないのが同じとか?
 いずれにしろ、平気で他者を踏みにじる一族に身を置くのは不安だ。

 それから当主が先生の独壇場を許した背景は何故だろう。黙っているのが不気味で怖くある。

「自由な恋愛、か」

 暫くの沈黙後。当主は呟き、柊先生へ着席を促す。
 他の分家が両隣に座るのに先生は下座。しかし、先生は気にかけるでなく座った。

「鬼姫様を見た瞬間、年甲斐もなく心が動いたよ、脳が痺れる甘さを感じた。これは鬼ならば皆、同じだろう。鬼は鬼姫に惹かれる」

 にこやかな笑みは明らかな下心が透けている。容赦なくわたしを値踏みした。

「どうだろう? 君が鬼姫である以上、一族の庇護下に入ってもらう訳だが、結婚に関しては好きな鬼を選んでもらって構わない」

「と、当主!」

 急な方向転換に四鬼さんが声を上げる。

「鬼姫は共同資産。お前は指輪に選ばれはしたが、四鬼家の当主は私だ。柊が提言したよう、私へ嫁ぐ選択肢があってもいいだろう?」

「待って下さい! わたし、結婚なんて考えられません! 話をどんどん進められても困ります!」

 話の先行きが不安の中、ひとつだけ明確な事がある。親子ほど歳が離れた当主と結ばれるのだけはない。

「鬼姫が本気で抗えば、当主といえど無理強いは出来ません。あなたには力があります。
当主に召し抱えられたくなければ、他の相手を選んでしまえばいい」

「そんな、結婚なんて……」

「残念ですが、鬼との結婚は確定路線で抗えません。自由な恋愛と言いましても鬼姫の相手となると当主様、千秋様、あと僭越ながら私くらいですがね。
あぁ、花婿候補は子を作る機能があるという意味の選定ですので、春野と秋里のお二人は除外してます。お2人に鬼の力がないからではありませんから」