鬼姫、鬼姫、鬼姫。誰もわたしーー浅見桜子を見ていない。みんなが鬼姫として接する。
 涼くんが鬼の一族の血を引くのまで鬼姫との縁に繋げられるのは嫌だ。四鬼さんの花嫁となって強い鬼の子を産むのを強制されるのも嫌。
 わたしはそんなこと、約束していない。

「四鬼家が鬼の血を濃く残してきたのは承知しています。千秋様とて私の妹、春野や秋里の遠縁の娘と婚約し、鬼姫様が現れなければ全員と子を授かったでしょうね」

「……全員?」

 わたしの困惑が声になる。お茶の効果が切れ始めたのを柊先生が気取り、わたしへ語り掛けてきた。

「四鬼家は婚外でも子をもうけ、力が1番強い子を当主としてきました。一族を絶やさぬ為とはいえ、酷いと思いません? 私はね、浅見さんに自由な恋愛をして貰いたいのです」

 その時、先生へティーカップが投げ付けられた。中身は冷めていたものの、先生の左頬をびっしょり濡らす。

「柊、口を慎め」

 幸い、カップは割れない。逆に投げ付けた本人が壊れそうな顔をした。四鬼さんが唇を噛んで先生を睨む。

「都合の悪い部分を隠して結婚するのはフェアーじゃないです。殊に女性関係については丁寧な説明が必要では?」

 事もなしにピンクのハンカチで拭う柊先生。あれも美雪さんに突き返されたプレゼントだろうか。

「柊に注意されなくても、それはきちんと話すつもりでいる」

「でしたら良い機会です。この場で話をしませんか? 当主様、如何でしょうか?」

 腕を組み静観する当主に判断が振られた。