「美雪の怒った顔も可愛いけれど、笑った顔が僕は好きだなぁ」

 彼は到着するなり噛み付く少女を宥める。わたしをキレイと言った唇で別の人も同じように褒め、言い慣れていた。

 わたしの場合はお世辞だろうが、確かに少女は可愛い。二人並んでいるとファッション雑誌の表紙みたい、見惚れてしまう。

「それで? こちらはどなたですか?」

 ふいに会話へ混ぜられ、はっと我に返った。

「浅見桜子です。貧血を起こしていたところを助けて貰って……」

 そういえば名前を知らない。彼に目配せすると、瞳を三日月の形にして微笑まれる。

「僕は千秋だよ、四鬼千秋。桜子ちゃんって素敵な名前だ。君にとても良く似合ってる」

「四鬼さんですね、ありがとうーー」

 名を繰り返してお礼を告げようとすると、四鬼さんはわたしの鞄を手に取った。ついでに携帯電話も拾い、ポケットへ入れてくれる。

「さて病院に行こう。僕の家、病院を経営していてね、少し距離はあるけど車で送っていく」

 後部座席を開け、わたしを促す。