「夏目君と喧嘩でもしましたか?」

 走り始めた車内、ルームミラー越しに見透かされる。

「一方的にわたしが怒っている感じですけど」

 昨日送って貰った時も香ったが、先生の車は甘い匂いがした。少し窓を開けようとすると察してくれ、流れる空気にため息を混ぜる。

「浅見さんも怒るんですね。大人っぽいというか達観しているというか、同年代とは喧嘩にならなそうなので意外です」

「わたしだって人間ーー人間なんですから怒ります。柊先生の方が誰とでも仲良く出来て喧嘩にならなそうですよ」

 自分を人間だと言うのに若干の引っ掛かりが生じ、先生に笑われる。

「浅見さんの場合、夏目君に限ってかもしれなくて、私は誰とでも仲良くするのではなく、誰とも仲良くしないので喧嘩をしないだけかも知れませんね」

「誰とも仲良くしないんですか?」

「はい」

 言い切られる。交差点を右折、学校とは反対方向に進路がとられた。ハンドルを握る先生は穏やかな表情を浮かべる分、涼くん以上に本音が分からない。

「話し合いの場と言っても事実確認後、あなたを我々の仲間……いえ、花嫁として迎え入れたいのです」

「約束された花嫁ーーとか、いうやつですか? それで四鬼さんは?」

「千秋様は屋敷で浅見さんを待っています。ふふ、やはり千秋様を選ばれますか?」

「どういう意味ですか?」

「あなたが千秋様を選ぶのは一族にとってマストですが、私の花嫁となってもいいのですよ?」

 す、と車が止まりハザードがたかれた。