「わたしの名前ってお祖母ちゃんが付けてくれたんだよね?」

「え? えぇ、そうよ。どうしたの急に?」

「じゃあ、親戚に同じ名前の人はいる?」

「え? 居ないと思う。それが何?」

「桜子って名前に特別な意味があるのかもって」

「特別な意味? それならあるわ!」

「え? 何? どんな意味があるの? 教えて!」

 前のめりになるわたしを抱き寄せて、背中を擦ってきた。

「あなたを産んだ日は桜が満開でね、まるで春に祝福されているみたいだった。お祖母ちゃんに【桜子】という名前はどうかって聞かれなくても【桜子】と名付けていた気がするくらい、あなたに似合うと思ってる」

「……お母さん」

「何か不安な事がある?」

「わたしがわたしでなくなる夢を見た。怖くはなくて、そうなるのが当たり前みたいな」

「当たり前と感じてしまうことが怖いのね?」

「うん」

「お母さんが守ってあげる。お母さんだけじゃない、お父さんも桜子を守るわ。だから1人で抱え込まないで」

 強く抱き締めてきたお母さんを全力で抱き返す。
 わたしの虚弱体質を気に病み、丈夫に産んであげられなかったと言うが、そうじゃない。そんなんじゃないよ。

 吸血しないと生きられないのはお母さんのせいではなく、わたしの問題だ。
 こんなにもわたしを愛してくれる人達を巻き込めないーー涼くんも含め、巻き込めないから四鬼さんと話をしよう。

 決意を固めた傍らでは携帯電話が震えている。

 わたしはこの揺れに気付かず、まさかそれが事態を更に悪化させるなどとは考えもしなかった。